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Case Study 氷川丸 横浜港のシンボルを再生する CACAO TOWN
 


 

 

 

新聞記事にによれば、横浜港の山下公園前にある二つの観光施設、すなわちマリンタワーと氷川丸が来客の減少により、累積債務に苦しんでいるということだ。原因として隣接するみなとみらい地区などの魅力度が上昇し、客が奪われたことがあげられている。今回はこの氷川丸をケーススタディとして取り上げてみよう。

問題の所在を仮説化する

氷川丸は現役引退後に山下公園に固定係留され、同公園のシンボルとして親しまれてきた。氷川丸の美しい船体は港の風景に溶け込み、非常に多くの船舶が出入りをする横浜港のイメージを好ましい形で表現してきた。しかし90年代に入って客数は大きく減少し、2003年には前年比で3万人減の15万人となったそうだ。集客改善のため、各種のイベントや結婚式などを催すなど、打てる手はどんどん打ってきたが減少傾向を覆すには至らない、と弁明されている。

こうしたケースを考える際には、問題の所在を明らかにすることが必要だ。もちろん様々な要因の複合があることだろう。しかし思いつくままに流行の手法を適用してみても効果が得られないことが多い。その理由は一番肝心なポイントが解消されなかったり、またバラバラの対策が相互に干渉しあったりするからである。そこで、真にキーとなるポイントについて仮説を立て、それに基づいた一貫性のある施策を講じられるとベストだ。

そこで、順を追って考えてみよう。まずマクロのビジネス環境を考えてみると、横浜臨海部の人気自体が落ちているわけでなさそうだ。神奈川県の発表によれば2003年の川崎・横浜地区の観光客数は久々に前年比を上回り、回復傾向にあるという。将来的にも地下鉄延伸で東京近郊からのアクセスがよくなり観光客は増加すると見込まれる。ということは、やはり臨海部の観光スポット間の客の奪い合いが影響しているのだろうか?もしそうならば、対策の方向は比較的明瞭だ。すなわち、客の周遊性を改善すればよい。全て同じ横浜市が関与しているため、各スポットを連携して全体としての効果を上げることは可能なはずだ。

しかし、ここで結論を急がないようにしよう。マクロ環境の考察ができたら、今度は提供している製品・サービスの魅力度を検証してみる必要がある。果たして人の流れが問題の所在なのか、それとも内容に問題があるから人が来ないのか、という点を明らかにしなくてはならない。

氷川丸に乗船するということが客にとってどのような意味を持つかを考えてみよう。対象は観光客であるから、切り口は概ね以下の3つに絞り込める

1)実益がある (例えば美味しいものがあるなど)
2)記念になる 
3)楽しい経験が出来る 

このうち、1)は観光地がやや苦手とする要素である。何故なら実益があるならそれは別に観光地でなくとも構わない。むしろ観光地の制約がないほうが実益を追求しやすい。例えば地方の漁港で朝市があれば多くの客が訪れるが、それは実益であるというより、記念になる、楽しい経験が出来るといった意味合いの方が強い。鮮度の良い魚は今や都市部ならかなり自由に手に入るからだ。持って帰る手間や時間を考えたら実利は圧倒的な要素ではない。

そうすると、客に対して2)又は3)を提供できているかが問題となるが、ここでハタと気づいてしまうのだ。それは今時の記念とは訪れることではない、ということ。つまり、記念写真をとったりする「証拠的」なものでは客は満足しない。以前ならそれで客は喜んでいた。しかし、現代ではもっと心からの感動が湧き上がるような体験型のものでないと、記念にすらならない。その理由についてはまた別の稿で記すが、簡単に言えば日常がそれほど単調で退屈なものでないからだ。客は単調でない日常に疲れて癒しを旅に求めるようになってきているという複雑な構造だ。それと対比させると、氷川丸というのは「記念写真的な」要素が非常に強い。デジカメもあるから写真くらいは撮るかもしれないが、乗船料を払って乗り込むほどではない。つまり根本的に、いまどきはやりにくいという宿命を抱えている。更に言えば乗船自体がややダサいということにさえなってくる。(そういう意味ではマリンタワーはほぼ絶望的と言えるのだが。)

楽しい経験ができるか、という意味では、コンサートなどを随時開催しているようだが、それは単発的であり、現時点ではややありふれたサービスの域を超えていない。以上から判断すると、客の流れは作り出すことは可能だが、肝心のアトラクション部分が説得力に欠けているためこのままではジリ貧は免れないだろうと想像がつく。

強みを活かした差別化

それではどのような再生法が考えられるだろうか。私なら乗船料は取らず、まず多くの人を乗船させ、体験型のサービスを提供して喜んでお金を払ってもらえるようにする。観光者というのは十分な予算を持っている。ただそのお金を払うきっかけを探しているわけだ。

例えば、ワイナリーを中核とするのはどうだろう。多くのワイナリーでは試飲会を開催し、客に味わい体験をさせている。どのワインも頼めば試飲させてくれる。客からしてみたら大判振る舞いに見えるだろうが、実際には購買率、購買単価とも非常に高くとても効率のよいビジネスなのである。

もちろん横浜にはブドウ畑などはないから、どこかの産地と手を組む必要がある。例えば山梨の優れたワイナリーでも良いが、契約栽培などを通じて品質や味をある程度コントロールすることが重要だ。単なる実演販売では客の心は動かない。生産の苦労やこだわりなどに共感することによって客はその製品を支持しようとするからだ。そこではオリジナルのワインなども是非提供したい。

船内では常に試飲会を開催する。10種類程度の様々なワインのテイスティングコースを設け、どの味が客に合っているかを自ら確かめてもらう。気に入ったワインがあれば、甲板でグラスワインを傾けることもできる。また、ブドウのオーナーシステムの会員を募集し、一体感を強化する。リピーターを増やし、口コミでファンを獲得していく。

このようなアイデアを提案するマーケティング的な根拠は以下のとおりである。

  • 市内や近郊を見渡しても同様なサービスはない(差別化)
  • 横浜のイメージ(トラディッショナルな洋風、赤レンガ)にマッチする
  • 体験提供の要素が強く、集客力を高める(体験感動型)
  • リピーターおよび口コミでカスタマーロイヤリティの高いアトラクションにできる

こうして横浜=ワインという新たな連想のシンボルとして、中華街と合わせてグルメの町として売り込んでいけば、横浜全体の魅力度も上がると期待される。是非試して頂きたいものだ。